yuuki_yoshino’s diary

ようこそ。自作の詩・随筆・小説・楽曲を置いておきます。

たんぽぽ 6

 私は結局、一睡もできずに翌朝を迎えた。スマートフォンは悪魔の機械である。私は私の自慰に利用できるような画像とか動画を探した。その間もずっと左手は股間を触っていた。そして果てると、今度は関心の有る事柄について調べたりするのだった。また催してくると、もう一度自慰をした。この繰り返しで夜が明け、結局シャワーを浴びる暇も無いまま自宅への帰路についた。

 日はすでに地面にほぼ直角にまで高く昇り、道行くスーツの男女を汗まみれにしていた。私は、自分の体液をふりまきながら懸命に働く人々を見て、少し憧れた。だが絶対に自分には出来ることではないと思った。率直に言うと、男女ともに私はどこか神々しい風格とエロを同時に感じたのだ。だが、ああいう人種が極端に人間の肉とか魂の匂いを嫌うことを、私は知っていた。野性的に暮らしている人ほど、人の本性を見ることを嫌がるのだ。一方で、私はそういう野性的な、都会的な人種がさも自分が善を身につけた人間であるかのようにほぼ例外無く思い上がっているという点が鼻持ちならなかった。だがこの現代社会の中で権力を握っている人間であればあるほど、そういう人種であるという経験的な事実が私から全ての勤勉さを奪ってしまうのだった。

 

 私は電車に乗る前に銀行へ寄って金を引き出すことにした。そこには糊の効いた仕立てのよいスーツみたいな、どこか儀式じみた正確な雰囲気があり、ものすごく丁寧でありながら高圧的だった。風呂にも入らず歯も磨いていない私は、他人に届く筈もない悪臭を振りまかないようにと、生理的に「私はここに居ません」という暗い顔でATMへ向かい手続を済ませた。だが、こういった人ほど人の目を引きやすいという経験的な事実も同時に頭に浮かんだので、帰り際に、出口の近くに居た店員の45才くらいに見える女性に「どうも」と微笑をたたえて控え目に会釈をした。女性の反応は至極ありふれたものだったので、それが私を安心させた。