yuuki_yoshino’s diary

ようこそ。自作の詩・随筆・小説・楽曲を置いておきます。

たんぽぽ 5

 まもなく私はT君を飲み屋の喧騒の中へ置き去りにして、自分の会計だけを済ませて退店した。まだ始発の電車までは相当の時間が有ったので、私は宿を探すか、他の店に入って時間を稼ぐか、そのどちらにするのか思案しながらぶらぶらと歩いた。近くには、終電を逃したときに私がいつも泊まる宿があったので、私はまずそこへ電話を掛けることにした。

 

 ホテルの部屋へ入ると、大きなベッドに横になった。チェックアウトは10時だが、一度寝ればその時間に出発できる自信がなかった。スマートフォンは着信音も振動も鳴らない設定にしていたが、T君からは何度も着信が来ていた。「どこ?」私は自分が寝てしまったことにして、朝まで返事をしないことにした。誰かと飲んだ後は無性に寂しく、隣に女の一人でも居てくれたらどんなに紛れるかと思った。愛してなくとも良いし、一夜限りの出逢いでも良い。しかしいつも私は、その女と別れるときに更に大きな喪失感に襲われるに違いないと考えた。そもそも、知らない女性と一晩共に過ごした経験も、私が同意さえすればそうなったであろうような状況に出会ったことも今まで一度も持ったことがなかった。何度か金で女を呼んだことが有ったが、どんな女が来るかが事前に知ることができないのが嫌だった。今はそういった持ち合わせも無かった。