yuuki_yoshino’s diary

ようこそ。自作の詩・随筆・小説・楽曲を置いておきます。

たんぽぽ 7

 私は不意に、学生のときの一学年下の後輩の1人を思い浮かべていた。彼とはただの一言も交わしたことはなかった。彼は先天性の病気か、それとも火傷の後遺症なのか定かではないが、とにかく全身の皮膚がただれて腐臭を放っていた。体育のときグラウンドで居合わせると、彼は集団から大きく遅れて不格好に走っていた。私が知っているのは、彼が入学から2年時まではその学校に居続けたということだけである。生理的な不快は、理性で管理することが出来ない。私がもし彼と同じクラスで近い席に座って居たとしたら、やはりその腐臭に鼻をつまみたい思いがしたに違いない。そして学年が上がってクラスが別になり、その臭気から解放されたら、救われた気分になるに違いないのである。私は、今彼がどうしているのか、生きているのかさえ知らない。だが周囲の人に不快を与えるべく運命づけられた彼の肉体に宿った精神がいかなる認識を持ち、何を幸として、どのような意志を持って生きていたのかを私は今問うていた。彼が今ここに居ない以上は、私は問うことしか出来なかったし、様々な言葉を重ねても謎はそこに居座っているだけだった。近くのカフェでカプチーノを手にテラスの席に座ってタバコに火を点けたとき、私はまたあの1つの考えに落胆を感じた。すなわち、こうした私の思索が組織や社会に必要とされることは決して無いのだ、という考えに対してであった。