新しき人よ
日常生活はくだらないか？
人間関係は苦労ばかりか？
周りの人間は、貴方に、貴方の作品に、
無数の「否」を突き付けてくるか？
そうだろう、そうだろうなあ
だがなあ
俺の兄貴は自殺した
ゴッホも自殺した
カート・コバーンも自殺した
ソクラテスは死刑になった
だから何だということも無いが
希望は必要ない、そうだろう？
生きる必要もない、現に生きているからだ
そのままでいいじゃないの
輪廻転生を信じるかどうかは人の勝手だが
死の向こうに何が待っているかは誰も知らない
判らんことを偉そうに言う奴は嫌いだ
俺は本当は、貴方にこう言おうとしたのだ
「死ぬな」と
だがこの言葉に効能はないだろう
俺はこの間まで教育業をやっていた
相手の精神に触れることは、ほとんど不可能だ
「死ぬな」 だと？
良く言えたもんだ
俺は貴方の苦悩の百分の一も味わっちゃいないのさ
だから俺は死のうとは思わんのさ
共感出来ない苦悩を治して見せようと意気込む俺は
実に残虐極まりない
「死ぬな」の言葉こそが
最大の非難・軽蔑に思われるに違いない
だって、私はこの一言で貴方の苦悩を片付けようとしたんだから
だから、「死ぬな」と言おうとしたのは
俺の思い上がりだ
俺は多分、精神的死の淵にある人々のことを
尊敬しなければならないだろう
多分その人々は、俺よりもはるかに、
キルケゴールの言った2種類の絶望の内の一方に
ずっとずっと肉薄しているのだ
そういう人たちから見れば、
俺は浅はかな「世間」に溶け合うごく平凡な社会人に過ぎない
俺もそうだった、
悩みを自分の一言で治療できると思い込んでる奴らは嫌いだった
不思議なもんだ
今や「死ぬな」と言いたい気分になったのは
じつにふしぎだ
