yuuki_yoshino’s diary

ようこそ。自作の詩・随筆・小説・楽曲を置いておきます。

自由広場の乱暴者

疲れ果て 本能そのものとなるとき
筆が乱れる

 

俺を軽蔑する眼の中で
筆が乱れる

 

新幹線に乗って
俺が祝福される場所へと向かおう
皆、のほほんと笑っていれば良かった
あの頃に帰ろう
誰も俺を罵らない あの場所へ

 

木々には美しい果実が実り
草の広場は人が踏み馴らし
木陰にちょこんと黄昏も良し
皆で集って話すも良し
万事に利用しやすいよう、整っていた
暗い顔の管理人も居なければ
アルバイトの青年も居らず
誰一人 団欒の邪魔をする者もなかった

 

そこで商売をやる者は居なかった
だから、誰一人足を踏み入れることを
拒まれる者はなかった
ただ 人々は自らの思い々々に
そのとき、その場所を楽しんでいた

 

私が思い出す自分の居場所は
親戚の集いだ
行き過ぎた行いを諌められたことも有ったが
今は遠い昔のこと
恨みも辛さも消えた
ただ俺がそのままに居ることを
許される場所だったのだ

 


あるとき、その広場へ不穏な一団が入ってきた
男性の少年が4人
転がる果実を蹴飛ばし
婦人の尻にぶつけた

 

 その家族は夫と婦人とまだ幼く、ようやっと口が利けるようになった女の子の3人だった。例の一団は不敵な笑みを浮かべていた。「いつものことさ」というような感じである。
だが、ひときわ存在感を放っているリーダーの男は内心面白くなかった。その家族は動揺するでも怒るでもなく、一瞬のささやかな当惑の後に、例の果実を処理し始めたからである。夫は妻に布切れを渡し、妻は自らの尻についた水滴と泥をぬぐった。夫妻ともに、決まりの悪いような様子はなかった。だが例の男に一番不愉快な印象を与えたのは、女の子が泣き叫ぶでも敵対心を露わにするでもなく、ただちょこんと座ったままこの始終を興味深げにまんまるな目で眺めていることだった。
 彼らは確かに質の悪い団体ではあったが、心の中にはちゃんと相手の痛みを感じとる共感の能力を宿しているのだった。リーダーの男はこう考えた。「あの家族はばつの悪さとか、相手への敵対心とかいう感情が抜け落ちているか、それともそういった感情が押し寄せて来たときに、それを露も外に表すことをしない能力を身につけているのだ。」と。
 男の驚くことに、その広場の人々は誰も彼等と戦おうとしないばかりか、ほとんど彼等を意識の中に置いてはいないようだった。
 男は何の気無しに、地面から小さな石ころを拾い上げると、それを一本の木の頂点を目掛けて投げた。石ころは木の葉に捕えられ、バサバサという音を立てながら重力に任せて落下していった。すると、何事かと見上げたある別の男の子の瞳に、それが当たってしまった。その子の母親は動揺し、目を押さえてうずくまる男の子に「大丈夫!?」と声を掛け、目の状態を確認しようと、男の子の手を顔からどかそうとつかんでいた。例の団体は元の進行方向へと全速力で走り、逃げ出した。しかし、その子の父親は猛然と駆け寄っていった。すると、その団体ははしゃぎながら男を足蹴にし、動けなくなるまで暴力を浴びせた。広場に居た他の人々は、ただ何が起こったのかと心配そうに眺めているだけで、父親を助けようとはしなかった。もう例の団体はどこかへと去ってしまった。その家族は父親の元に集まってただ泣いていた。広場の他の者たちは、父親に美酒を与えたり、美しい果実や布を与えることで慰めた。
 この広場には国家も法も無く、あのような無法者に報復できるような力と意志を持つ結社の類も無かった。男の子は右目に弱視を抱えたが、その家族は以前と変わらずに暮らしていった。